ひとは何を買っているのか?
Fact-merit-benefitで整理する
買う側の常識=ベネフィット
これについては書いておかないと前に進めないなぁ、と、思うので書きます。マーケティングでいうところの「ベネフィット」というやつについて。便益とかいう、いけてない訳語がついてますが、そいつです。マーケティングにおいては、そもそものベーシック中のベーシックなところですね。
ひとは何にお金を払っているのか。セミナーなどでいつもお話しするのですが、私は次のように解説しています。
ひとは「自分の身に起きるうれしい現象(の予感や確信)」にお金を払う。
これを、ものすごく当たり前に感じられたとしたら、あなたは大丈夫です。すぐれたマーケター、すなわち、ちゃんと素の自分を忘れないでいられるひとです。
ひとは、自分(場合によっては、買ってあげた相手)の身に起きるであろう現象を想像し、それが自分にとってうれしい=ポジティヴなことである、または、今より良くなる(気持ちや生活や見た目や苦労や面倒など)ことを期待してモノ(商品・サービス)を買います。
ただし、とても残念なことに、世の中のほとんどの買い物は、使ってみる前にお金を払わないといけません。使ってみて、期待通りのものかどうか、確認してからお金を支払えればいいんですが、なかなかそうはいきません。
なので、実際には、店頭やネットなどでひとが確認しているのは、そういううれしい現象が起きるであろう確率・確からしさであって、それが高そうだという予感や確信にお金を払わざるを得ません。
ここで言う予感とは、「う~ん、なんとなく良さそうだよね」とか「なんか、かわいいぞ」という気持ちや感覚を指し、確信とは、「XXさんがいいと言っていた」とか「XYZで金賞を受賞しているんだから悪くないはずだ」などの論理的なものを指します。
でも、本当に期待・予想通りなのかは、買って、使ってみないとわからない。なので、みなさん、使い慣れたものや人気の高いもの、特に不便を感じていない限り今使っているものと同じものを買うんですよね。
売る側の勘違い=機能・性能、技術や配合
さて、買い物をする側から見れば、至極当たり前の、この「ひとはベネフィットに金を払う」ということが、なぜか、売る側、商品やサービスの作り手やそれを伝えることを仕事にしている人たちに、しばしば混乱や間違い・誤解を引き起こします。
それは、売り手は、ついつい、「自分のモノが、相手に何をするかを伝えるべきだ」と思ってしまうからです。
さらには、「自分のモノに含まれる成分や技術が何か、いかに優れているか、どれくらい他社と違うか・他にないか」を知ってもらえばもっと売れると考えてしまうからです。
もちろん、それらは、多くの場合、お互い無関係ではないことが多くて、あるいは成熟したマーケットにおいて見られがちですが、(お客さん置き去りで)その性能比べが起きることがあるのも事実ですし、お客さんも一緒になってスペック比べに興じてたりすることもなくはない。また化粧品や健康食品などの一部のカテゴリでは、ベネフィットを言うことが法的に規制されていて、結果、表現がまわりくどくなってたりすることも。
それでも、原則として、お客さんは「自分の身に起きるうれしい現象(の予感や確信)」=ベネフィットにお金を払うことに違いはありません。
わかりやすい例を使って少し議論してみましょうか。
たとえば、「ぐにゃぐにゃ曲げても大丈夫なメガネ」で考えてみましょう。
1.フレームとレンズが、今までにない
柔軟な素材でできているので、
2.大きな力がかかったり、
変な方向に曲げても、
折れたり曲がったりすることなく、
すぐに元通りの形に戻る、よって、
3.(子どもがいたずらしても・激しい
運動中にアクシデントがあっても)
メガネがこわれないから安心。
ここで、ベネフィットは、もちろん、最後の「こわれにくいから安心」です。(ターゲットやブランドによって、変わるので、ここではあくまで一般的なレベルで。)
お客さんがお金を払うのは、こわれる心配が少ないメガネ、です。
簡単な話ですね。
Fact‐Merit‐Benefit
この構造を、わかりやすく説明するために、よく「Fact‐Merit‐Benefit」というのを使います。
(1)Factとは、原料・材料・成分・
技術などのこと。
(2)Meritとは、製品やサービスの
機能や性能。
でも、ひとが買うのは、
(3)Benefit、私の身に起きる
うれしい現象です。
ともかくまずは、この3つに整理するようにします。
さて、ほとんどの場合、ひとは1と2は気にしません。
3が欲しいのであって、その論理的理由を買うわけではないからです。
3が手に入ることを予感したり確信したりするために、必要なときに1か2を(1と2ではなく)気にすることがあるだけです。さらにいうと、1や2でなくて、他の情報や感覚的な要素のほうが重要だったりします。(成分や機能より、専門家のおすすめや人気順や、見た目のかわいさのほうが、納得しやすい「理由」になってること、多いですよね。)
たとえば、独自の界面活性剤や酵素の働きで(Fact)、他のどの洗剤よりタンパク質汚れに効果的に作用するので(Merit)、えりやそでの頑固な汚れがすっきり落ちる(Benefit)。
たとえば、最新のエンジンと軽量な車体のおかげで(Fact)、驚きのXXkmの低燃費を実現(Merit)、なので、ガソリン代が安くつく(Benefit)。
たとえば、イオンの技術を利用したドライヤーが(Fact)、髪にうるおいを与えながら乾かしてくれるので(Merit)、ダメージの少ない美しい髪に仕上がってうれしい(Benefit)。
たとえば、たくさん穴が開いているノズルなので(Fact)、一度押すだけで、あらゆる方向に瞬時に内容物が広がるので(Merit)、一瞬にして部屋中がいい香りでいっぱいになる(Benefit)。たとえば…。
ベネフィット=機能・性能のもうひとつ先のこと
ところが、なぜか、売り手は、機能や性能=Merit(変な方向にまげても、いかにちゃんと元通りになるか)を売りたがります。なので、不自然かつ不必要にひんまげる広告を作ります。なぜか、原料や技術=Fact(それがなんという素材なのか)を売りたがります。なので、「独自のフレックスなんとか素材」という名前を付けて喧伝します。
それらに自分たちの苦労が詰まっているからですね。または、他社と比べられたらどうしよう、という疑心暗鬼のせいかもしれません。比べるかもしれませんね、確かに。でも、その前に、私に起きるうれしい現象=Benefit(こわれにくい安心なメガネ)が欲しいと思わないと、比べさえしないはずです。
(ちょっと待った、そしたら、あの「ヒアルロン酸」ってでかでか書いてある化粧水は?あれは、女の子には通じるBenefitの暗号、です。「ヒアルロン酸」と書いて、女の子には「むっちゃうるおう」と読めるんですね。これに関しては、「女性にお金を払ってもらうということ」に詳しく解説しています。)
ともかく、ご自身の製品やサービスの、何を売りにすべきなのか、悩んだときは、「自分がお客さんに何をしてあげるのか=Merit=機能や性能ではなく、お客さんの身に起きることでよろこんでくれるであろう現象=Benefitを考えてみなきゃ」と、機能・性能のもう一つ先に起きることを考えてみてください。
ということで、ひとは自分の身に起きるうれしい現象=Benefit(の予感や確信)を買ってくれる、という基本中の基本のお話でした。