5.ひととブランドを一緒に置いてみる
すいません、短くまとめるのが下手で。ついついあれも言いたい、これも書きたいってなってしまうんです。
ようやく最後のセクション、いよいよ、まとめです。これまで出てきたやつらが全部一堂に会する感じです。つゆだく全部乗せです…。
極意1 ひとを「Senses/Heart/Mind/
Soulモデル」で捉える
極意2 それをもとに、きちんと深読みし、
理解する
極意3 カテゴリーをひとの視点から見て
「Task/Place/Moment
+Community」で再定義する
極意4 ブランドを「Senses/Heart/Mind
/Soulモデル」で捉える
と、これまで議論してきたそれぞれの「パーツ」を、ひととブランドの関係という形でひとまとめにしてみる、ということです。 さてさて、どうなりますやら。
~ひととブランドの関係を眺めてみる~
「眺めてみる」とか書いちゃってますが、ここまで読んでいただいている多くの方々の頭の中には、すでにこの「全部乗せ」は描かれているんだろうな、と思います。
ですので、さっさとお見せします。(次ページ図)
カテゴリーという名のカフェのテーブルをはさんで、顧客とブランドが向かい合っているように見えませんか?
見えない場合は、がんばって、そのように見てください。
いつもちゃんとこのような図を描いているわけではありませんが、私が「ブランド戦略」という言葉を使うときは、こういう感じのものが思い浮かんでいます。もちろん、わからないところは空白にしたりしながら、何か発見があったら、その都度埋めたり書き換えたりしながら。
今回、新しく加わった要素は、ふたつ。
ひとつは、このふたりの関係、もうひとつは、間のテーブル=Mediumです。
ふたりの関係
えとじやでは、マーケティングとは、
「ひとがひとにモノを買ってもらうこと(すいません直接お目にかかれないので、XXで失礼します)」
だと定義しています。ここでは、それ自体を詳しく論じることはしませんが、突き詰めると、というか、一番シンプルな行為に煮詰めると、結局、「ひととひと」なんだということです。
ブランドマーケティングにおいては、その一方の「ひと」がブランドになるわけです。(ここが「会社」とか「私」になっているひとには、ブランドマーケティングはわからないんだろうなと思いますが、こっちは明らかに脱線ですね、やめておきます。)
このひととブランド、出会ったばかりのふたりかも知れませんし、もう腐れ縁なのかも知れません。
あ、誤解のないように言っておきますが、別にマーケティングを恋愛に例えようとしているわけではありませんからね。わかりやすいたとえ話なので、よく恋愛を引き合いに出してマーケティングを語るのを目に・耳にします(し、たまに口にします)が、それはあくまでたとえ話で、こちらは、概念的なお話です。
実はブランドとひとの関係は、いろいろなパターンを取りえます。対等な関係の場合もあれば、ブランドは顧客のしもべ、というのも、ブランドが顧客のあこがれの存在ということもありえます。(そのひとつとして、あたかも恋愛関係のような、というのがあるわけです。)
大事なのは、カテゴリーというカフェにおいて、ふたりの関係はどうあるべきなのか、どうありたいのかをちゃんと考えておく、それを戦略として開発・把握・認識し、言語化して持っておく、そうあるために、それぞれの要素はどうあるべきかを決め、それらを行動に反映させることです。
ふたりの間のテーブル
さてもうひとつの新しい要素、真ん中のテーブルですね。
Mediumとしましたが、接点という言い方でも問題ないと思います。
ふたりの出会いの場だったり、つながりの場だったり。別れの場というケースもありますね。何も残念な別ればかりではありませんよ、赤ちゃん用紙おむつや医薬品のように、「ほんとにありがとう、助かったわ、さようなら」というのもありますから。
Mediumとは、広告などのメディアという意味ではありません。が、メディアもここに含まれます。
マーケティングの具体的な対顧客活動そのものは、ほぼすべてここで行われると考えます。
製品の使用、購買、広告活動やリレーション構築の活動、パッケージのデザインも店頭施策も、製品やサービスの使用も、すべて。口コミや第3者推奨のような、間接的なものも、そのカテゴリーで語られるブランドに関するものはここに入ります。(実は、調査も。)
「マーケティングの仕事をしています」と言うと、多くの方がここで起きることたちを想像するのは、それが目に見える成果・仕事だからです。
しかし実際には、それらは大きな戦略フィールドの(目立つけれども)ほんの一部だということが、この図で感じていただけるのではないかな、と思います。
ブランドマーケティングの仕事とは、このテーブルの上で起きる出会いやつながりが、できるだけ高い確率で、テーブルの両側に座っているふたりにとって、いいことであるようにする仕事。そのために、目に見えないもの(お互いのBehavior・テーブルの上のもの以外)を、ちゃんと理解し、定義しておくんだよね、みたいな。
HeatとHeart、MindとMind
眺めていただいて、気づかれたと思いますが、Senses/Heart/ Mind/Soulは、左右(顧客とブランド)対称に置いています。
そして、Behavior が一番前にあるのは当然として、そのすぐうしろにSensesがあって、Soulが一番後ろにあります。
込めた意味としては、まず、ふたりのHeart同士、Mind同士…が呼応しあっている状態になるように戦略をデザインしたい、ということ。
そりゃそうですよね、ここがちぐはぐだと、いい関係になりませんから。この手のフォーマットの多くが、呼応関係にあることを図式化できてなかったりするので、ちょっとこだわりました。
肌が合う、馬が合う、しっくりくる、気が合う、打てば響く、ツーカー、戦友・生涯の友。ブランドとひとが、そういう関係になれれば、強いビジネスになれるわけです。
Senses同士が響き合うのが、きっと肌が合う・馬が合う・しっくりくる感じでしょうか。
Heart同士だと、気が合う? 打てば響くもそれっぽいですかね。
Mind同士が、ツーカーかな、お互いを認め合っているという雰囲気でもありますね。こういうときは、お前に任せる、みたいな。
Soul同士が響き合うと、これはもう(ちょっと変な例えですが)戦友とか、生涯の友・伴侶とか、心酔とか、そういう言葉が似合います。とてもとても強い結びつきですね。(その分、裏切るとすごく怒られ・あきれられ・嫌われますが。)ここまでくると、ブランドが私に何をしてくれるの?だけではなく、「私はブランドに何をしてあげられるの?」になってきます。構築は簡単ではないが、できたら強く結びつける、ので、一番うしろに配置しました。
そしてSensesとSenses
(さて、今から大事なこと言いま~す。ここを理解できると、マーケティングが「当たる」ようになりますよ~。)
もうひとつの意味は、「Sensesって無茶苦茶大切ですよ」です。
なので、前のほうに(近いほうに)配置しています。
セクション1で少し書きましたが、ひとは(動物は)、刺激をSenses=感覚で受けて、Heartで印象を決めます。このモデルの場合、刺激とはブランドのBehavior のこと。理屈=Mindが動くのはそのあと、です。つまり、(第一)印象を決定づけるのは、ほぼ感覚だと言えるわけです。
よく言われることですが、ひとが他人の話を聞いていて判断・理解することのベースは、話の内容よりも、そのひとの見た目と声のトーン、話している状況や雰囲気のほうが大きい。
ひとは見かけ(まずは)、です。馬子にも衣裳、鬼瓦に化粧、Fine Feathers Make Fine Birdsです。ツンデレにしてもギャップ萌えにしても、まずは、第一印象があってこそ成立するものです。
これは、マーケティングでも同じで、ブランドがどのような機能的な便益を約束していて、いくらで売っているかというようなMind情報よりも、見た目や手触り、口調、使い心地、音や動きのほうが、印象を決める力が強い、ということでもあるわけです。
ブランドのBehaviorの中で、ひとの印象を一番左右するのは、Sensesの具現としてのBehaviorだということです。
(このあたり、Appleさんは、ホントによく知ってますし、知ってるだけじゃなくてちゃんと実践してますよね、いつも感心します。)
製品の見た目や形状(化粧品で言うととろみとか色ですね)、そして使用におけるシグナル(ベネフィットそのものではないが、使ってよかった・心地いいと感じさせるもの、歯磨きのミントフレーバーとか)、そしてパッケージやアイコンなどのデザインとコピー(の口調)、広告の表現センス、が、それぞれそのものはBehaviorですが、それを定義づけるSensesの戦略が、とてもとても大切だというわけです。
(ここが、古典的なWHO/WHAT/HOWなどのモデルでは、軽視されがちなのだと思います。少なくとも私が経験してきた範囲では。)
では、デザインがかっこよければいいのか? もちろん答えはNoなわけです。
「Sensesの戦略」という言葉を使っているのには意味があって、テクニックとしてのデザインとしていけてるとか、使いやすい・間違いにくいなどの基本を押さえているかとか、新しいとかトレンドに合っているかということではなく(それらもBehaviorとしては大切ですが)、それがSenses以外のブランドの戦略要素(Soul/Heart/Mind)とちゃんと一貫性があるか、ということが大切になります。
なんか見た目と中身がちぐはぐ、とか、パッケージだけかっこよくて中身がしょぼい、すっきり清潔にしたいのに甘~い香り、とか、そういうのはNG。
ブランドに関するPositiveな「予感・好奇心を掻き立てるもの」として機能し、ブランドを使い始めるきっかけ、使い続けるホントの理由、ブランドのMindやHeartの良さを確認させてくれるもの、さらには、Senses要素からブランドの根幹=Soul・大義を感じ取れるようなものがいい。またしてもAppleが優秀な例になっちゃいますかね。いや、ガリガリ君も。最近はあんまりフォローしていないので違っちゃってるかもですが、GODIVAもいい例だと思います。
この分野は、少なくない確率で、デザインなどの「感覚」の長けたマーケターと、戦略策定に長けたマーケターの協業が必要になります。両方できるひとは、あんまりいません。ちなみに、私はいつもデザイナーさんに助けてもらいます。(また、残念なことですが、「できる」と看板上げてて、全然できないデザイン系の事務所がたくさんたくさんあるのも事実です。)
また、優れたデザイナーさんに依頼していても、戦略的意図が明確でないと、お金と時間ばかりかかって、長いやりとりが続くだけです。(最悪の場合、そのまま世に出してしまうことになって大失敗。)逆に、頭でっかちな理屈マーケターが、ひとりでどれだけ言葉をひねっても、小難しい言葉が飛び交うだけで、全然「感覚」を規定できません。
一部の天才を除いて、ここでは、最低ふたり必要なんだろうな、とつくづく思います。
製品・サービスのデザイン、例えばプロダクトの見た目や使い心地をデザインしていくときなどにも、同じことが言えると思います。
これを読んでいる方は、マーケティング界隈にいらっしゃる方が多いと思いますが、みなさんの仕事には、そういうパートナーはいますか?
長いお話でした。ここまでお付き合いいただいた方、ありがとうございます。
でも、まだ終わりません。もう少しだけ。
最後にあと少しだけ
図を見て、もうひとつ考えていただきたいこと。
顧客とブランドのふたりは、テーブルをはさんで向かい合っている、つまり、このレベルに到達し、この関係を維持するためには、全人格的な、とまで言うと大げさですが、うそはつけない関係が前提だ、ということです。
「ブランド」・「ブランディング」というと、中身(プロダクト・モノのパフォーマンス)がたいしたことなくても、なんか箔をつけて売れるようにすることだ、いいデザインを施せば売れる、評判になる広告を作れば売れる、口コミを作り出せば売れる、という、大いなる誤解、いつまでたっても無くなりません。
ホントに情けなくなるし、そういう風に考えてらっしゃる方とはお付き合いしないようにしていますが。
そんな状態で、顧客のカテゴリーに入れてもらおうとしても、大抵の場合は、すぐに見透かされておしまい、です。二度とテーブルにつかせてもらえません。
そもそも誰に顧客になってほしいか決まっているか、その顧客を理解しているのか、顧客のカテゴリーに入れてもらうための最低限の条件をちゃんと満たしているのか、自分のブランドを「ひととして」信頼したり愛したりしてもらうための要素はちゃんと整っているのか、顧客にどんな関係を望んでほしいのか、それを持続させるためのリソースにコミットできているのか。
実は、そういうのを考え、設計するのが、ブランドマーケティングでして…。いかん、愚痴になる、ここまで。
ああ、おしまい~。
ホント、お疲れさまでした。
また、当初、このフレームワークを形にし、補強するのにも、音部さんにはずいぶん助けてもらいました。音部さん、ありがとうございました。