隣の芝は青い?
ブランドの答えは自分の庭にある
仕事やセミナーなどでいろいろな方にお会いすると、地域ブランドやニッチブランドに携わっている方々は「マスブランドはお金があって、TVCMとかできて、いいな~」とおっしゃいます。
一方、マスブランドのひとたちは、彼らを見て「無茶苦茶リッチなブランドストーリーがあって、いいな~」といいます。
(私も、マスブランドのマスマーケティング出身なので、後者に近いですね。ただ、ラッキーなことに、今の仕事では、どちらにも関わるので、両方楽しめます。ほほほ。)
隣の芝生は青い、ということなんでしょうか。
とても不思議なことに、どちらにも共通しているのは、とても多くの方が、「自分のブランドに備わっていないものを欲しがる」ということですね。
先日も、とある化粧品ブランドのご相談をいただきまして、「認知度が足りない、親しみやすさが足りない、ベネフィットの魅力が足りない、広告と店頭のインパクトが足りない…何とかしてほしい」と。実はこの会社、泣く子も黙る技術をお持ちなのですが、リーフレットの隅っこまで読まないと、それが出てこない。
なぜ、言わないんですか? と聞くと、「あ、それはいいんです」という答え。
う~~~~~む。
別の小規模食品ブランドのご相談では、その会社の別の巨大ブランドが、その素晴らしいポリシーで有名なのに、なぜか、そこから離れよう離れようと必死になっていて、結果として何をとっても「ふつう以下」にしかなっていないというケースがあり、「せっかくなんだから、その有名巨大ブランドのポリシーを活かした方法を考えてみては?」とお勧めしたら、みなさん、目からうろこだったらしく、感心しきり。
また、とある地域ブランドの担当者さんとお話したとき、彼は認知率の低さを嘆いていました。広告が打てないから売れないんだ、と。
大企業の競合にいろいろな意味で太刀打ちできないで困ってらっしゃる、とあるサービスブランド。でも、そのブランド設立の経緯とか歴史とかが、とてもおもしろいので、もっとそれを活かしたらいかがですか? と話してみると、「いや、そういう古臭いものを今の消費者は求めていませんから」と、一蹴。
などなど、いくらでも例はありますね。
ついつい、自分のブランドの持つ資産や歴史やくせや得意・苦手なこと、そうしたものを忘れて、SWOT分析みたいなことをしてしまったり、カテゴリのリーダーたちが、成功の結果として持っているイメージなどを単純に比較し目標にしてしまうんですねぇ。
あのブランドくらい「親しみやすい」って言われたい!って。
気持ちは、わからなくはないですが、そういうのは、えとじやマーケティング用語で「無理な相談」と言います。
答えは、少なくとも答えにつながるヒントは、常にブランドの足元、自分の庭にあります。
ワインなどであれば、ブランド資産につながるものは、ワイナリーやその地域の歴史、ぶどうやその育て方、畑・土地、作り手、などを掘り起こしていくことで見つけられる、というのは、おわかりいただけますよね?
同じことです。製品やサービスが生まれた背景、開発などにかかわる逸話・秘話、名前の由来、発売当時や売れた時の出来事や広告やデザイン、そうしたところに、ブランドの根幹をなすものや、これからブランドを育てるために利用すべきストーリーや資産が隠れています。
売れてる競合の強みをながめてうらやましがっていても、対症療法的な施策しか思いつけません。
おもしろいのは、例えば、担当者が、ブランドの弱み・苦手と思っている部分が、実は案外いいネタだったりする、ということ。
単純で表面的なSWOT分析をして、W・O・Tを嘆いたり、変えようとしたりしても、うまくいかないことが多いのに対し、弱みを強みに切り替える方法を考えたほうが、ずっと建設的です。
いつも例としてお話するんですが、「古臭い」というイメージは、多くの場合、弱み・改善すべき点として認識され、多くのマーケターは「新しい・先進的な」にならなくっちゃ、と考え、広告のスタイルを大幅に変えて大すべりしたり、パッケージデザインを刷新して、さらに売れなくなったりします。
「古臭い」を「新しい」に変えるのは、至難の業です。
でも、「古臭い」を、「伝統がある」とか「歴史に裏打ちされた」とか、「長く愛されている」「権威がある」「物知り」「こだわりのある」「通好みの」などなど、に、変換するのは、実はそれほど難しくなかったりします。
弱みを利用して強みに変える技、ですね。
少し話がそれたかな?
ともかく、ブランドのマーケターは、足りないものを嘆いたり、他人が持っているものを見てうらやましがったり欲しがったり無いものねだりをする暇があったら、じっくり自分の庭と向き合ったほうが、そしてそれを利用する策を考えたほうが生産的ですよ。
隣の芝生は青く見えるものですがね。