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株式会社えとじや

マーケティングなんでも相談所

売れている理由を知ること 〜診断士的考察
SKILL

売れている理由を知ること
〜診断士的考察

文 山下和美・写真 あべれいこ

 中小企業診断士の資格を取ってはみたものの、長らく診断士らしいことができずに過ごしていましたが、その後、思いがけず、個人でお店をされている方とお仕事をする機会にめぐまれました。
 中小企業は、資金や人材の確保といった特有の悩みも多いようですが、抱えているビジネスの課題(特にマーケテイングの課題)は実はそれほど特殊ではなく、〝大きな会社やプロジェクトチームで起こることの縮図〟のようなところもたくさんありそうです。
 大きな会社なら手分けして解決できるところを、経営者ひとりで、または少人数でなんとかしなければいけないので苦労は多いと思います。でも、PDCAのサイクルが早く、短期間で様々な経験ができるのは、経営者としての醍醐味なんでしょう。お手伝いしていて面白いところでもあります。
 今回、事業の分析や相談を受けながら改めて感じたのは、〝会社の規模に関わらず誰にでも当てはまりそうだな〟というポイントが少なくないことでした。
 ここでは、その中からひとつ、「売れている理由を知ること」について書いてみたいと思います。

 「売れない理由」は是が非でも知りたいのに、「売れてる理由」は意外と気にしない。そんなことはありませんか?
 新商品が予定通りに売れていると平穏な日々が続くのに、売れゆきが悪いと「なぜ売れてないんだ!」と大騒ぎになり、途端に仕事が倍増する…なんてこと、わたしも以前よく経験しました。
 ビジネスの調子のよい時は、誰も「なぜ売れているのか!」とは聞かないものです。
 個人でお店を経営している場合は特に、自分のいいと思うものやビジョンをもとに方向性がしっかりと定まっているので、順調なときに「何が良いか」なんて振り返ることは滅多になさそうです。会社でも、〝できない子(うまくいかないプロジェクト)〟ばかりに手を焼いて、時間や労力を使ってしまい、〝できる子〟はほったらかしにしてしまいがちではないですか?
 でも、調子がよい時こそ、振り返ってみるといいんじゃないかと思います。(「売れている理由」を考えるのは、ポジティブで単純に楽しい・気分がいいから、というのももちろんですが、)実は、そこに大きなリスクとチャンスが隠れていることがあるのです。

「なぜ売れているか」を 考えてみたほうがよい理由①

 もしかすると、外的要因で売れているだけ、というリスクが潜んでいるかもしれないから。
 たまたまテレビで特集されて注目が集まったから売れたのかもしれない。いつもよりも暑い日が続いたからかも。急に風邪が流行ったからかもしれない。お店の近くでイベントがあって交通量が増えたからかも。単に競合が失敗したからかも。どこかの大きな会社がSEOやってくれたおかげで、ついでにアクセスが増えてるだけで、別にトレンドでもなんでもないのかも…。
 もし、そういった外的要因のおかげで調子がよいのであれば、それらがなくなると好調は終わってしまいます。だからと言って、自分で再現・コントロールすることはできないので要注意なのです。
 お手伝いしているお店も、気が付いていなかったのですが、そういう側面がありました(あぶない、あぶない)。
 想定外の恩恵をありがたく受けながらも、それがなくなったときに打つべき次の手を考え始めないといけません。安心して好調にあぐらをかいていると、痛い目に合うかもしれません…コワイですね。

「なぜ売れているか」を 考えてみたほうがよい理由②

 変えてはいけない・強めていくべき〝ブランドの良さ〟を見直すチャンスだから。
 ビジネスを大きくする際の方向性に自信が持てる、もしくは、失ってはいけない要素を明確にすることができます(それを間違うと大きな痛手に)。
 たとえば、お得意様ができ始めて売上を伸ばしていたお店が、事業を広げたいと考えたとします。
 お客さんは、そのお店のこぢんまりとしたアットホームな雰囲気が気に入って通ってくれていたのに、お店を広くしたせいでせっかくの雰囲気を失ってしまった、とか、常連さんは○○専門店という専門性に魅かれて買ってくれていたのに、良かれと思って専門外の商品にも手を伸ばしたところ(例えば、紅茶専門店なのに、コーヒーもジュースも扱うなど)、商品数は増えたのにかえって客足が遠のいてしまった、とか。
 ありがちですよね。
 お店を例にとりましたが、ブランドの傘の下で新商品を出す場合も同じことが言えます。
 そういった失敗は、「売れている理由」をきちんと理解しておくと避けることができるのではないかと思います。
 もう少し具体的に言うと、自分のお店やブランドを気に入って買ってくれている人が、どんな人で、どのようなきっかけやモチベーションで通って・買ってくれていて、なぜそんなに好きなのか、それは他のお店やブランドとどんな風に違うのか、といったことです。
 お得意様に直接話が聞けるとよいですが、それが難しい場合は、同業のお店を見に行ったり、競合商品を使ったりしてみるのもよいでしょう。
 今お手伝いしているクライアントさんの場合は、近くの競合店を見に行ってお店の雰囲気や商品・サービスを比較することで、そのお店のよさがとても明確になりました。
 シェアの低い小さなビジネスは(世の中のほとんどがノンユーザーなので)、顧客数を増やそうとついつい売れない理由に目が行きがちですが、小さなビジネスほど、お得意様が気に入ってくれている理由にきちんと耳を傾けたいものです。

 すでにシェアの高いビジネスであっても、さらに伸びるためには、市場自体を活性化するか他業種に進出するしかない。
 なので、どちらにしても、自社の強みを理解しておくことは大事ですよね。
 「売れてる理由を知ること」で潜むリスクとチャンスが見えてくる。
 これを機に、好調なビジネスを一度振り返ってみてはいかがでしょうか。
 手のかからない〝できる子〟にこそ、時間を割いてみてあげてください。