隣の芝は青くない
(あるいは、自分の芝の青さを知ろう)
最初にはっきりとお伝えします。
隣の芝は青くありません。むしろ真っ赤に炎上していたりします。
入ったこともない芝に無防備に入っていくのはやめましょう。
さて何のことでしょう、と思われるかもしれませんが、今日のお題は、「新規事業」です。
ここで、すでに心当たりのある方、そうです、あなたのことです。
(弊社のクライアントさんで、これを読んでらっしゃる方の中に、「え?私のことを書いてるの?」と思っている方もいらっしゃるでしょう。ご安心を。あなただけではありません。)
大丈夫(?)。驚くほどたくさんの会社で「隣の芝は青いぞ、うちもいけるんじゃないか?!偵察に行ってこい!」と社長に・会長に・エラい人に言われているのです。
(ちなみに偵察ならまだマシな方で、ともかくやってみろ!も多いです。)
少し前で言うと、通販コスメ、健康食品、美容系、シニアなどが「みんなが青く感じる隣の芝生」でした、もう流行は終わった感じですが。ここのところ、ともかく多いのが、「まずはネットで売ってみろ!」パターンでしょうか。「販促費やインフラ投資をかけずに、口コミでじわじわヒット商品になったものがたくさんあるらしい…。うちも同じことがしたいんだよぉ!」
大抵が今のビジネスで伸び悩んでおり、何か起爆剤がほしい、という背景があります。そんな中で急成長する業界を見たり、異業種に入って成功した事例を耳にしたりすると、それだ!となるようです。雑誌やTV、ネットでも、そういう成功例は、派手に取り上げられることも多いですし。
(「がっちりの朝焼け」とかの放映日の翌日は、朝礼前から社長がうるさい、というのを聞いたことありますね。でも、ああいう成功例って、「あとから振り返ったから言える」話だったり、実は企業のPRだったり、また、取材される側に回ってみるとよくわかるんですが、記者や編集者が「こうしたほうが受ける」という視点でまとめてて、実情とずいぶんかけ離れてて、「それ、ちょっと違うんだけどなぁ」なことが多いのも事実。)
さて、オーナー企業さんなど、強いトップダウンの場合は、仕方ないですね、やってみるしかないでしょう。社長(会長)が言うことですから。業種によっては、やってみてダメならすぐひっこめても、特に問題はないわけですし。
まぁ、がんばってください。
でも、少しでも抗えるならば…。全く未知の、何の縁もゆかりもない新規事業への参入はかなり無謀だということをぜひお伝えいただき、それよりは成功の可能性の高い商品アイデアを作ります!と、かっこよく宣言ください。
そりゃあできることなら宣言したいけれど、そんなアイデアがなかなか思いつかないんだよ、というアナタ。もちろん、難しいことです。
すぐ思いつくモノなら、もう世の中には出回っています。
そこで今日は、まずこんなことを考えてみてはどうでしょうか、というヒント集です(たとえ、あなたの部署に「新規事業開発本部」という名前がついていたとしても、ヒントになるはずです)。
1.あなたの芝は隣から見ると青い。
(残念ながら時々、青くない場合もあるにはありますが…)
私たちのお仕事柄、外からの視点で拝見するわけですが、実に多くの方が自分の芝生の青さを過小評価しています。
まずは自分たちのビジネスが、何で成り立っているのか、どういうお客さんがどのくらいついていてくれるのか、確認しましょう。いいお客さんがたくさん支えていてくれるはずです。他の会社が取り込みたくても取れないお客さんが、あなたの商品を買っていてくれるはずです。ここでいう青さは売上ではなく、顧客だとして考えてみるのもいいでしょう。
2.どこがどんなふうにどれくらい青いか知る。
ここが一番重要な、今日のポイントです。ほかの記事にもありますが、皆さん「自分の悪いところ探し」が得意・好きすぎる。
うちの芝生は青くない、あそこもここも枯れはじめている…。
(日本の教育について思うことも多いですが、それはさておき、)
皆さんの会社にも青々とした芝生がある。でも、どういう青さを持っているのか、知らさなさすぎです。緑なのか、水色っぽいのか、深い青なのか、群青色かもしれない。自分だけの素晴らしい青さを持っているのに、本人が気づいていない。
そして、今日も青々とした芝生の真ん中で、青くない場所を見つけてはため息をついている。
例えば…、
「この商品はロングセラーでね」とか、「これはいい子なんですよ、放っておいても売れる」とか、結構聞きますが、「どうしてですか」と聞くと答えが出てこない。下手すると「何でですかね、考えたことなかった」と言われます。
もしくは、知っているつもりでも知らないケースもあります。「主婦に受けがいいんですよ。使い勝手がいいんでしょうね」、「これはこんな時に使う商品なので、そのニーズがあったということじゃないんでしょうか」。でも、ちゃんと調べたことはない。ユーザーが好きな理由と、送り手が思っている良さが一致していないのを、とても多く見かけますよ、ぜひ、知ってください。
この熟しきった市場において、ロングセラーとか、結構売れた、という商品があるならば、そこにものすごいヒントが隠れているわけです。しかも自分の会社の能力(お金や人や規模や組織など)でそれが達成できているわけです。
そうしたら、まずはそこから学ぶべきですよね。強みと成功パターンが何なのか。
さらに、選択肢の多い店頭で、自社製品を何度も買ってくれるお客さんがいるわけです。その人がどんな人で、どんな生活を送っていて、どんな気持ちで製品を使っているのか。その製品やサービスは、必ずちょっとした生活への潤いを与えているわけです。それが消費者の言葉で言ったらどんなことなのか。知るべきじゃないですか?
これらが分かると、自分の会社の強みが見えてきます。
どんなパターンなら勝てるか、見えてきます。
新規事業で新しいことをするのに、今までのやり方を知っても遠回りじゃないか、と思われるかもしれませんが、こうした作業を積み重ねていくと、意外と新しいアイデアが浮かんでくるものです。手当たり次第思いつくよりも、起点があり、根拠があるほうが当然アイデアも思いつきやすいのです。
また、この作業をすることで、「いいアイデアだけど、どうやって売るんだい?」という罠を防ぐこともできます。「まずはいいアイデアを作ることから。売るのは何とかなる!」と始めるケースが意外と多いですが、大抵の場合なんともなりません。販路、営業力など、自社能力を超えている場合は、そこに大きな投資が必要になってきます。自社の強みや資産を活かせないだけでなく、経験もないし、そもそも誰からも信頼されてないわけですし。
「いいアイデアなんだけど、販路の問題で止まったままプロジェクトが動きません!(私のせいじゃありません、言われたことはやりました)」
などという「新規事業あるある」、ぜひ、お気を付けください。
3.芝生の面積を広げればいいというものではない。
最後に。今は焼畑農業的なアプローチは全く通用しないと思うんですが、それを戦略にしているケースを見ることがあります。(ホントにお金持ちの大企業は、勝手にやってください。)
「うちの商品は、40代より上にしか売れない。若者向けを作るんだ!」
繰り返しますが、この円熟市場で、全世代に受けることって難しいです。また「若者」って括れるような「若者」って存在するんでしょうか。(ま、ちなみに今の人口構成で考えると40代は若者ですけどね。ま、いいか。)
実際、じゃあ40代以上の人がどのくらい買っているのか、とデータを見たりすると、例えば、ターゲット人口の4%くらいだったりするわけです。だったら若者に行くんじゃなくて、6%目指せば売上は1.5倍ですよね。もしくは4%の人に、あともう一個商品を買ってもらえるようにすれば、十分な売上が作りだせるはずです。
今青い部分を起点に、そこからじわじわと広げること。もしくは深みを増す、色を足す。やり方はさまざまです。
その作業で発見できることは、実は、既存を伸ばすことに限りません。新規事業になるアイデアもいくつか見つけられることでしょう。
社長に・会長に跳べと言われたから、と、塀を乗り越えて隣の庭にダイブする前に、ぜひじっくり考えてみてください。