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株式会社えとじや

マーケティングなんでも相談所

やることは他にもある
BENEFIT
「差別化」ということばを使うな、と言ってみても

3.やることは他にもある

文 岡本晋介・写真 嶋貫泰至

 ためにする差別化はビジネスを悪化させるだけでなく、ブランドの価値さえ下げてしまいます。(付加したと言い訳するための付加価値、も同義。)
 なので、一番のおすすめは、「差別化」などということばを使うのをやめてしまえばいいんですが、おそらくすでに多くの方の身体にしみこんでしまっていることばなので、そうもいかないだろう。ということで、では、その運用について、少し違った見方をしてみましょう、と。

 前のセクションでは、「差別化だからといって、違うものを提供している必要はない」について書きました。同じかBetterでいいんだ、ということです。
 誰も欲しくない、どうでもいい機能をくっつけて仕事した気になったり、大切なことを忘れて競合と違うところばかりを声高に叫んだりしていると、ダメになりますよ。
 えとじやマーケティング用語で「食べ物はおいしいから食べる」原則というやつです。
 差別化したければ、「おいしいだけじゃなく、XXXもできる」ではなく、「Bはおいしいだけだけど、Aはすごくおいしい」がお勧めですよ、というお話でした。

他に差別化できるところ

 で、ここでは、差別化できる・すべき場所は、モノのパフォーマンスやベネフィットだけじゃなくて、他にたくさんありますよ、むしろ(文系)マーケターはそういうところにこそ注力すべきでしょ、というお話。かなり基本的なところなので、さくさく、あっさり、を心がけます。

 まとめてしまいますと、
❶ブランドの人柄や夢、目指す世界や
 価値観が違うことこそが差別化だよ。
❷機能(マインド)や感情(ハート)
 だけでなく、感覚(センス)でも
 差別化できるよ。
❸お客さんのことをわかっている度合いが
 競合より高ければ=優れたインサイトが
 開発できれば、差別化なんて簡単よ。
❹そして、マーケティング
 コミュニケーション(広告・チラシ・
 PR・店頭…)でも、いくらでも
 差別化できちゃうよ。
の4点でしょうか。チェックリスト的に使ってもらっていいですよ。

ブランドキャラクターによる差別化

❶同じ値段で同じモノを、2人の別のひとから買うことを思い浮かべてください。
 きっと、「いいひと」のほうから買いますよね。(「いい」の定義は、あなたの価値基準次第で変わると思いますが。)
 そういうことです。
 ブランドとは「ひと・ひとがら」のことですから、その「ひと」が持っている考え方やこだわり、性格や価値観、夢や目指す世界、そうしたもので差別化はできるし、むしろその差別化のほうが、機能性やパフォーマンスよりずっと大事です。「いいひと」が売ってくれるのなら、ちょっと高くてもそっちにしよう、とか、実はみなさんの日常でもよくあることのはず。
 これこそ、(文系)マーケターの腕の見せ所です。
 まぁ、たとえば、「丸くなるな、星になれ」なんかを思い浮かべてもらってもいいかも。(日本の)ビールなんて、結局どれも同じですからね。

感覚や感情による差別化

❷感覚って、古典的なマーケティングでは軽視されがちですが、実はとても大切な要素です。どうも「機能(Function)」と「感情(Emotion)」が大事だと言われることが多いようで、ちょっと光が当たってない感じがしますが、実は、みなさんも、手触りがいいからとか、なんとなくかっこいいから、とか、ちょっと色合いが素敵だから、とか、そういうことでモノやサービスを選んでいます。ひとには、理屈=機能を理解し吟味するMindと、感情を想像したり共感したりするHeartのほかに、ちゃんと感覚でモノの良しあし・好き嫌いを決めることができるSensesが備わっています。(あと魂=Soulってのもありますが。)
 なので、感覚で差別化する方法が、実は山ほどあるわけです。それは製品やパッケージ、あるいはアプリのアイコンのデザインだったり、製品の色や香りだったり、ボタンやキャップの形状だったり、押したり振ったりしたときに出る音だったり。
 これ、Appleの、私が考える最大の強みですね。あの、さわっていたい・撫でていたい感じ。(私自身はそうではありませんが、理解はできます。)

インサイト(とその持続的開発力)による差別化

❸どんなひとが、どんなことを考え、思いながら暮らしていて、その生活・人生の中でどういう関わりを求めていて、いつ、どんなときに、どんな場所で出会ったり再会したり思い出したりしてもらったら、あなたのことを一番大切だと感じてもらえるか。それがわかっているマーケターが提案するものは、そうでないひとが提示するものより、明らかに受け入れてもらえる確率は高いはずです。
 もちろん、競合に真似されることもあるでしょう。でも、深く理解していれば、相手の仕事が猿真似でしかないことを、ターゲットはわかってくれるし、あるいは、次々に有効なインサイトをもとにしたマーケティングが打ち出せるはずです。

 あ、これはなかなかいい例を思いつかないかも…。ありきたりの例で申し訳ないですが、シャンプーの「髪が痛むからってカラーリングやめるわけにいかないじゃないですか」とか。機能的な「差別化」が難しいマーケットで、継続的な成功を収めているところは、みな、これができてるんだと思いますが。私の前職の会社は、なんのかんの言って、ここはよくやってましたね。

表現物・施策(デザイン・広告など)よる差別化

❹そして、マーケターの周りにいる、表現のプロたち。例えばデザイナーや広告のクリエーター、PRやプロモーションのプロたち。彼らがその力を発揮してくれれば、あなたの製品やサービスが、競合にはない輝きをもって世に紹介されていくわけです。これも立派な差別化です。彼らクリエーターには、魔法が使えますから。あなたの仕事はそれをうまく引き出すこと。そうすることで、たとえ同程度のパフォーマンスと同程度の価格しか提供できなくても、上述の❶・❷・❸をうまく料理して、最高の差別化をしてくれますし、ブランドの「らしさ」を育ててくれる投資にもなります。
 (文系)マーケターの醍醐味ですね。
 (TV広告だけ社長直轄の宣伝部に任せてるような会社や、ネットの広告だけデジタルの部署がやってるようなところはこれが苦手です。)

 なんだか、あったりまえのことをだらだらと書いてしまいましたが、「差別化ということばがもたらす悪行をなんとか減らして、本来の意味に近い形で運用するために」ということなので、どうしても基本的なところに立ち戻らざるを得ず。
 長々と失礼いたしました。