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株式会社えとじや

マーケティングなんでも相談所

食べ物はおいしいから食べる
BENEFIT
「差別化」ということばを使うな、と言ってみても

1.食べ物はおいしいから食べる

文 岡本晋介・写真 嶋貫泰至

GoPro、あるいはRoombaがのこした教訓

 少し前になりますが、ものすごい勢いで売れたコンパクトデジタルビデオカメラといえば、GoProです。スノーボードを趣味・生きがいとする私は、もちろん持っています。サーフィン、スキー、スノーボード、自転車、バイク、などなど、アウトドアスポーツを楽しむ人たちなら、見たことあるでしょうし、持ってらっしゃる方も多いと思います。
 爆発的に売れた初期のころのGoPro、実物を見ていただいたらおわかりだと思いますが、「開いた口がふさがらない」ほど、あっけないカメラです。バージョンが進んで、いろいろ機能が増えてはいますが、基本、動画・静止画を撮る以外のことはできません。

 撮った画像は、本体では確認できませんでした。液晶画面をオプションで買って付けると見られますが、すごい勢いで電池が減る。雪山や海辺という、電池には過酷で電源に恵まれない場所で。WiFiで飛ばして、スマホのアプリで確認できますが、もちろん、面倒です(し、電池が減ります)。家に(宿に)帰って、PCにつなぐまで、はたして撮れているのかすらわかりませんでした。(なので、何度も練習・失敗しないと、うまく撮れるようになりません。)
 ボタンは3つくらいしかなく、動画―静止画など、機能を切り替えたいときは、何度も押すしかなく、もちろん、ズームなんてありませんでした。
 しょっちゅう「フリーズ」するので、そのたびに裏のふたを開けて、電池をはずすという「強制終了」が必要で…。アウトドア中心のカメラなのに、本体は全然防水ではありませんでした。ケースに入れて使うのがデフォルトですので、充電もデータの転送も、いちいちケースから出さねばならず。
 ちなみに、実は、それほど安くありません。自分の使い方に合わせて、いろいろなオプション装備を買わないといけません。
 できないことだらけの、「撮る」だけのカメラ。
 さて、このカメラを眺めながら、いつも友人たちと話すのが、
 「こういうの、日本のメーカーには作れないんだよね~、絶対」
 「すぐ、いろんな機能付けちゃって、かえって使いにくくなるのよね」
 「そもそも日本でビデオカメラといえば、お父さんが運動会とかで子どものビデオ撮れないと、だから。GoPro持って、学芸会とか行かないでしょ」
 その通りだなぁ、と思います。実際、いくつかのメーカーが同類のものを出しているようですが、どれも「多機能&高機能」です。で、売れてません。
 でも、ふと思うのですが、これがほんの2~30年前だったら、きっと会話は…
 「こんなカメラ、日本人じゃないと思いつかないし、作れないよね~」
 だったのではないか、と。

 例えば掃除機。あれって(主に、目に見える)ゴミをさっさと吸い上げてくれる機械じゃなかったでしたっけ?
 しかし、電器屋さんに行ってみると、すごいことになっています。
 私は、吸うだけの掃除機が、ホントに欲しくて、ずっとダイソンを使っていたんですが、あいつもやがて回ったり叩いたりするようになって、今はMieleを使っています。
 悲しいのは、日本のメーカーの掃除機は「吸う」以外のことばかり。
 あるいは、「ペットのいる家庭のために特殊ヘッドを装備」しているおかげで、すぐにペットの毛がからまって機能しなくなるという親切な機能付き。
 オフィスではRoombaを使っていますが、いいですよね~。なんたって、階段どころか、ちょっとした段差も登れないし、床にモノが置いてあるとつまずいて止まってしまうし、ときおり鉢植えをひっくりかえしそうになるし、もちろん隅々はきれいになりません。(家(充電器)に帰るようにデザインされているはずですが、結構な頻度でソファの下で力尽きてたりします。)
 でも、掃除って、だいたいそれでいいんじゃなかったでしたっけ?

差別化のためにする差別化

 洗濯機も電子レンジもテレビもカメラも…なにもかも、「どうでもいい使わない機能を付加することで価値を高め差別化をはかる」病です。
 そして、これは家電とかだけの話ではないように思います。
 「そんなの、ホントに必要なんだっけ?」
 「それって、実際、何になるんだろう?」
 「それで結局何が違うの?」
 それでも、競合との差別化のために、差別化のための差別化として、付加価値を付けましたというために付けた付加価値が、そうしたものたちが世の中に出ていくことを正当化していく。
 マーケターが、そうしたことを続けて、仕事をしている気になっていると、ある日、あなたのカテゴリーにGoProが、Roombaが現れて、あざ笑うように勝利していく。
 「差別化」も「付加価値」も、言葉そのものに罪はありません。
 しかし、現実にはとても多くの場面で、「どうでもいい使わない機能・性能・成分・配合を付加することで価値を高め差別化をはかる」ことを後押しする形で使われている。そんなもの、お客さんは欲しがってもいない、けど、販売店に営業するときの「良い言い訳になる」、消費者不在の「差別化・付加価値」。

わたし(使うひと)にとって大切なこと

 では、どうしたらいいのか、というと、「わたし=使うひと」にとって、そもそも大切なものは何なのかから目をそらさない、ということだと思います。いばらの道かも、ですが。
 カメラは撮るためにある、掃除機はゴミをさっさと吸ってくれる、食べ物はおいしいから食べる、化粧品はきれいになりたいから使う、ママチャリは楽に素早く移動するためにある…。
 そこから逃げずに、どうしたらその「大切なもの」のために、「へ~、なるほどね~」、「それは助かるわ」、「うれしいね」、「楽しいかも」と思って・感じてもらえるのか、製品開発から広告やチラシの制作にいたるまで、そのことを考えること、なんじゃないかなと思うわけです。

 (それができないから困ってるんじゃないか!とおっしゃる方が多いだろうこともわかりつつ、あえて「ほざいて」みました。)

 日本が技術立国だった時代の名残でしょうか、世の中、まだまだ製品が高品質であることを差別化と考える傾向が強いように思いますが、しかし、実際には、使っているひとがわかるレベルで技術的な差をもって差別化ポイントとするのは、非常に困難で、短期的にしか優位を保てない。
 そして、それを正解と考えると、できないことだらけのGoProもRoombaも解けない。

 お客さんは性能や機能を買っているのではなく、「私の身に起こるうれしい現象」を買っているのですから、性能・機能のレベルではなく、ベネフィットのレベルで「他の製品・ブランドよりこれがいいなぁと感じ・考えてもらう=差別化」、あるいは、ベネフィットのレベルで「他の製品・ブランドにはない良さや愛着などを感じ・考えてもらうように=付加価値」と、考えてみてはいかがでしょうかね?